こんばんは、しまちゃんです。
今日は、入試、とりわけ医学部入試のネタ。
私は職業柄、大学の医学部医学科を志望する生徒に対応することがある。
「対応」というのは、その生徒の「担当」となり、主に面接の練習を行ったりする。医学部医学科志望の生徒は通常進路や勉強に迷いはあまりないため、おもな接点は面接の練習や志望理由書の添削ということになる。毎年2月25日の国公立大学の二次試験直前ともなると、面接の練習(医学部志望の生徒だけではないが)でスケジュールが埋まることとなる。ちなみに私の専門は英語だけど、現在英語の授業は医学部志望の受験生対象には持っていない。
最近医学部入試における大学側の不正問題が取り沙汰されているが、私は(というか現場で指導している人間は全員)以前よりこの問題は当たり前のものとして捉えてきた。今でこそやっと問題視されているが、教育現場(や医学部受験の生徒の間)では周知の事実で、わざわざ声を上げる気にすらならないほど「受験生差別」は大学によって堂々と行われてきた。もちろん大学は大広げにそんなことは公開しないが、だからこそ一部の学生はそれによって直接的な被害を被ってきた過去がある。
今日は、多くの国公立大学が、どのようにして受験生を学力試験以外で「不合格」にしているかについて現場サイドから方法の一つを書いてみたい。まあそんな大それたことでもないが、よく今でも問題になっていないのか、不思議でならない。
国公立大学でもこんな状況なのだから、私立大学がやりたい放題なのは想像に難くない。
国公立大学における入試の仕組み
前提として、国公立大学の入試システムについて触れておきたい。
もちろん大部分の人が知っているかと思うが、国公立大学の入試で課される試験は以下の通り。
- センター試験
- 二次試験(個別学力検査)
センター試験は毎年1月の土日に行われ、50万人以上の生徒が受験する。現在の形のセンター試験は2020年で終了し、翌年より「大学入学共通テスト」へと移行することが決定している。
二次試験というのは各国公立大学が独自に生徒に課す試験で、大体前期試験が2月25日に行われる。
国公立大学の合否は、このセンター試験の得点と二次試験の得点の合計で決する。
大学によってそれぞれの配点比率は900(センター):700(二次試験)だったり、110:440(これは東大)だったりする。
一般的に言えば、レベルの高い大学であればあるほどセンターの比率(重要度)は低く、二次試験の比率(配点)が高い。例えば東大であれば、センター試験で足切り(いわゆる門前払い)にさえならなければ、二次試験で高得点を収めれば十分合格の可能性があるということになる。
一方で、地方国公立大学の一般学部(文系学部や医学部医学科以外の学部)であれば、センター試験の方が配点が高く、1月のセンター試験で失敗してしまうと二次試験での挽回が難しくなる。
受験生が医学科合格に必要となるセンターの得点
国公立大学の医学科を志望する生徒であれば、センター試験では概ね900点満点換算で800点以上、最低でも760以上はないと勝負にならない。これはどこでも大体一緒。つまり、1科目平均9割の得点率が大体の目安となる。
現実には国語のセンター試験で9割(180点)を取ることは非常に困難なため、他の科目にしわ寄せがいくことになり、数学や理科や英語はどれかしら満点または満点近く取る生徒が多い。
国公立大学医学部医学科の二次試験
典型的には以下の教科が課されている
- 英語
- 数学1A 2B 3
- 理科(物理・生物・化学より2教科)
- 面接
典型的な二次試験の配点
- 英語 200点
- 数学 200点
- 理科 200点
- 面接 ?
こんな感じ。
国公立大学医学科が受験生を「不正に」落とす仕組み
ここからが本題だが、大学にはそれぞれ大学として「欲しい」生徒や「欲しくない」生徒がいる。それは大学のカラーとでもいうべきか、好き嫌いというべきか、伝統というべきか。この辺は大学があたかも人格を有するようでおもしろい。
なお、欲しくない生徒は大学はどうしても落としたい。成績の良し悪しに関わらず。これは理解ができる。見た目が汚いとか、怪しいとか、まったくコミュニケーションが取れないとか。「医者になってほしくない」という生徒は合格させたいとは思わないだろう。
成績オンリーでは落とせない
しかし、仮に絶対に落としたいと考える生徒が二次試験満点だとしたらどうだろうか。大学はこの生徒を不合格にする術を失うことになる。なぜなら学力試験というのは点数で客観的に結果が出てしまうため、こんな生徒を落とすと後で不正が完全にバレることになる(センターはもっと公平だし)。今では情報開示制度があるため、数百円の費用で後から自分の点数を確認することができるようになっている。
面接で落とす
ではどうするか。答えは簡単。面接で落とすのである。現在の医学部入試では面接で、人が人を主観的(恣意的)に採点するということが許されている。採点基準などはもちろん存在しない。大学側の一存だ。
ある大学では、二次試験の出来に関わらず面接の内容によっては大学の一存で生徒を一発で不合格にできることが明記されている。
またある大学では、この面接の配点は200点だ。200点と言えば、英語や数学、国語のような主要教科の満点分ある。この200点の配点を、5分~7分の面接で採点している。
しかし考えてみてほしい。一人の初めて会った人間を、別の人間が5分~7分話しただけで判断し採点できるだろうか。しかも受験生はと言えば、この面接のためにバッチリ練習を重ね、だいたいヘマはせず、みんな近いようなことを言う。なぜ分かるかと言えば、私は多数の医学科志望の生徒を面接指導しているから。面接から帰った生徒に面接の内容を聞くと、みんな決まったことを一様に口にする。「ありきたりな質問(これは練習する)以外、ほぼ簡単な会話でした」、と。
こんな内容では、生徒を採点することなど不可能に決まっている。この面接が、生徒を落とすために存在するというのは当然の帰結ということになる。受験生にとって、200点分の裁量を持っている人は神様だ。殺すことも生かすこともできる。受験生の血の滲むような1年の頑張りをいとも簡単に無にできてしまう。
※ただし、センター試験と二次試験の合計が極端に高いと、「不適格」な生徒であっても大学は生徒を合格させているようだ。
何が問題か
私は、大学が(もしくは国が方針として)医学科を受験する生徒に対し適切な事由による何らかの条件設定をすることに対し問題を感じていない。むしろそうすべきだとさえ思える。例えば、60歳の人が仮に合格したらその人が医療現場に出るのはもうかなりの老人になってからだ。そのような人に税金と医学科の枠を使ってしまうよりは、前途有望な若者を合格させた方がいいに決まっている。
男女数に関しては議論の余地があるかもしれない。まったく同数のほうがいいのか、数に差を設けたほうがいいのか。私には分からない。ただ、私は男女を完全に何に対しても同等(平等ではなく)に扱わなければならないという考えには大反対だ。頭がおかしいとさえ思う。
出身地や何浪かで差別することは許されない
医学科の推薦入試の1つの方法として、「地域枠」というのがある。その地域出身者優先で入学させるというもの。私はこの方式も疑問だし、そもそも、大学によってはその地域(県)出身者を上記の面接点などで優遇しているという話もある。なぜ出身地によって差をつけるのか。単純に出身地によって人の優劣は決めることはできないのではないか。こんなことがまかり通れば、肌の色で差をつけることも問題ないということになる。もちろんこれは、その人材が医師になった後にその地域の医療を引き続き担うことがより約束されているという意味では意義のあることなのかもしれないが。
また、これは私の地域で顕著なことだが、浪人生をあからさまに差別している。あくまで噂だが、浪人生(だいたい3浪目から)は初めから面接点が低いという話もある。この差別は、現場の感覚としてはもう間違いなく行われている。現役生は、多浪生が絶対に合格しないような点数で合格することがある(ということは逆に現役生にとってはチャンスだ)。
差別したいのであれば明記すべき
100歩譲って、どうしても大学として県外生よりも県内の生徒を取りたい、または、多浪生よりも現役生が欲しいという考えを尊重するとしよう。
それであれば、条件をすべて入試(選抜)要項に記載するべきだ。
県外生の定員は〇%です、とか、女子の定員は〇人です、とか、受験は平成〇年以降に高校を卒業した生徒に限る、とか要項に書けば済む話だ。
問題は大学が、あたかも「すべての方が受験し、合格するチャンスがあります」、みたいなフリをして、実はそうではないことにある。もうこれは詐欺に近い。受験生の受験チャンスは1年に1回しかないのである。入学させないつもりの生徒がいるのなら、受験ができないと初めからそう書いておくべきだ。そんな大学には受験生はわざわざ受験に行かなくて済むのだから。
そうして初めて、誰に対しても公平な受験が実現できる。男女の数の違いとか、年齢制限などで議論するのはまた別の話だ。
おわり
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